会社帰りに個人事業のクライアントと契約に関する打ち合わせをし、
気がつくと21時を回っていた。早く帰らねば・・・
僕はトコトコと駅の階段を降りていると、後ろから押され気味になり、
前の人の靴のかかとにあたってしまった。
その瞬間、その男が振り返り何かを叫び、僕のコートの裾をつかんできた。
僕はびっくりしつつも、その男を瞬時に観察した。
そいつはスーツを着ていて禿げていた。
思いっきり禿げているが、30代くらいだろうか。
気の毒に。
スーツと靴は安物だ。時計もひどい。鞄もスーパーで売ってそうだ。
僕が新卒の頃だって、こんなひどい格好はしてないぞ・・・
見た目から判断するに、おそらく彼は最近話題のワーキングプアだろう。
禿げだからまともな企業に採用されなかったのか。
しかしいきなりキレるとは、ブラック企業勤めのイライラが出てしまったのだろうか。
僕は彼が僕のコートの裾を離してくれるのを黙って待った。
悪いんだけど、このコート、君のスーツと時計と靴と鞄を足した金額よりも高いんだよ。
君みたいな禿げはYohji Yamamotoなんて知らないだろうけどさ。
と心の中で思ったけど、声に出したら彼が今にも殴りかかってきそうなのでやめた。
もちろん僕は禿げたサラリーマンごとき一撃で殴り殺せるけど、禿げの貧乏人を殺しても
なんの得もないのでそんなことはしない。
彼も僕のコートをつかんでその後のアクションに困っているようなので、
僕は「あー、すんませんねー」と平謝りして助け舟をだした。
しかし実のところ、僕は笑いこらえるのに必死だった。
だって、禿げた貧乏くさい奴がスーツ着て、なんかスゲー怒ってるんだもの。
笑わないほうが無理だぞ。
彼は何かブツブツいいながら、貧乏くさい捨て台詞を吐いて消えていった。
後ろ姿も禿げていた。
いやあ、マジで勘弁してほしいよね。
喧嘩したところでこの禿げが失うのはブラック企業のしょぼい給料となんの楽しみもない人生
だろうけど、万が一、僕が防御のためとはいえこの禿げをしばいたら、それなりの知名度がある
企業の年収7~800万のポジションと堅調な個人事業の収入まで失うんですよ。
僕、絡まれ損じゃないですか。
ただまぁ、さすがにここまで低階級の奴にコートの裾掴まれたくらいじゃイライラしないという
ことはわかったけど。
この禿げだってブログのネタになっただけで、なんの得もしないだろうに。
平和が一番ですよね。